100冊読書・005 筒井康隆「家族八景」

筒井康隆の小説を読みたい、とふと思って。小説ではない「創作の極意と掟」はタイトルに惹かれて読んだことがあるのだけれども、さて肝心の小説を読んだことがないぞと思って、手にとってみたのであった。

わたしの友人にホリユウキという人がいて。このひとは俳優なのだけれども、以前話したときに「筒井康隆が好きです」と言っていたことを思い出して、「読み易いやつ一冊と、ホリさん的にコレゾ筒井康隆というやつを一冊教えてほしい」とお願いしたら、「読み易いやつ」と「コレゾ筒井康隆」にくわえ「僕が好きなの」の三冊を紹介してくれた。ホリさんはプレゼン上手でとても興味を喚起されたので、とりあえず三冊すべて読もうと思っている。手始めの一冊「家族八景」は「読み易いやつ」で、たしかに読み易かった。

むかし「七瀬ふたたび」というドラマを観た記憶があって、そのシリーズだな、と思ってページをめくり始めたけれど、ドラマの印象とはぜんぜん、全く違ったというか、当たり前といえば当たり前だけれども、あのドラマは、小説家としての筒井康隆のやりたかったこととは、なんというか、無関係な作品だったのだなと思った。「家族八景」は、ひとの精神世界を文字で表現することに意義をおいて書かれた作品だと感じた。「エスパーの少女」という設定はキャッチーではあるけれども、そこが第一義ではないのだなという印象。

ひとの心理を主観的な文脈をもって描くことは小説の常であるけれども、この作品には本来曖昧であったり矛盾があったり断片的であったりする人間の精神世界にそのまま文字でもって輪郭を与えようという気概があり、そこに心理学をベースとした心的機構の表現を並行させることで、「家族八景」というタイトルどおり、それぞれの家族、登場人物のあり方をたいへん小気味よく、客観的に、解像度の高い景色として記述されていた。主人公七瀬の心理描写が最小限にとどめられているのも、無駄な湿っぽさがなく、からりとしていて好感がもてた。

しかし率直な感想として、とくべつに面白かったかどうかは微妙なところだ。発表当時に読んでいたら、この表現の在り方に鮮烈な感動があったのかもしれないけれど。いかんせん、作家自身の、小説というジャンルへの探究心と、筆力への自信、のようなものが読んでいる間じゅうチラついて、それはそれで悪くはないが、チラつくなあ、と思いながら読んだ。なんだかギラギラしているというか。これ書いてる人きっと精力旺盛なんやろうなあ、と折に触れ思わされたという感じ。とりあえず、ホリさん的「コレゾ筒井康隆」と「僕が好きなの」もそのうち読もうと思います。